建物が愛されるってこういうことなのだな、と。
愛されているから美しいままでいられる。そして美しいから後世に遺される。
 
そういうことを感じた金沢文庫の宿、旅館喜多屋さん。国の登録有形文化財に指定されている建物に泊まってきました。
 
食事付きのゆっくり滞在も、長期旅行の立ち寄りに素泊まり滞在もできる、由緒正しい建物の宿です。
 
★旅館 喜多屋
 
 
Copyright:Yuri Ito @yurio_it

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「海の公園柴口」から徒歩5分ほど、小高い丘を登る途中に宿があります。

建物は創業100年の料亭を改装した、国登録有形文化財。長らく地元の人に愛されてきた老舗の料亭を、現行法規にて再生し、このあとは旅館として世に生きていきます。

 
今回私を案内してくれたのは、宿の立ち上げから関わり、オペレーション全体を見ている女性で、私は「さおりさん」と呼んでいます。
さおりさんとは、彼女の前職の神楽坂の宿の立ち上げている時に知り合いました。確か、桜の季節の古民家での宴で。
 
そして、しばらく日本を離れていた彼女がイタリアから帰り、また新しい宿の立ち上げを手がけていることを知った私は、彼女の新しい現場へかけつけました。
 
 
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彼女は、私が今まで出会った宿関係者の中でも、抜群に知性にあふれた人で、複雑な状況でも本質を理解している人で、そしていつも宿泊者の立場でものを考えるお客様想いの人です。
 
彼女の話は、心の底からお客様のこと、仲間のこと、そして宿という「場」のことを考えていることが伝わる真摯なもの。彼女がいる宿に訪れるお客様はラッキーだったと言っていいほど、心を尽くしています。
 
「世の中がもっと彼女を発見してくれたら」、そう思う、素晴らしい女性です。
 
そんなさおりさんが、仲間と一緒に作り上げている宿が、今回紹介する「旅館 喜多屋」さんです。
建物の美しさはさることながら、随所に思いやりの心が散りばめられた宿です。

 

では施設紹介に。
 
 
 
◎エントランス
 
古い料亭そのままのたたきは、多くのお客様を通したことが分かる、しっとりとした艶を放っています。
大きなのれんが風にたなびいた時に、ゆっくり入ってくる太陽の光で、明るい印象の玄関です。
 
 
Copyright:Yuri Ito @yurio_it

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◎お部屋
 
全てのお部屋は個室となっています。3人〜6人程度までの規模の、幾つかのタイプの和室があります。
ほとんどのお部屋でお庭を眺めることができ、明るい雰囲気です。
寝具はお部屋に用意されていて、寝る時の準備は自身で行います。
タオルやアメニティなどもお部屋に準備されています。
 
 
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実は、昔は宿の目の前までが海で、海で泳いだお客様がそのまま宿に帰ってくる、という光景があったそうです。

 

いまは埋め立てられていますが、「そう言われれば」という地形を窓の外から望むことができます。
 
歌川広重が「金沢八景」というシリーズの浮世絵で表現した、入り組んだ入江がコントラストを描くランドスケープを感じることができます
(広重の絵の複製が大広間に飾られています。)
 
 
◎大広間
 
ここが私の一番のお気に入り。
24.5畳のお部屋は、ダイナミックな大きさ。ここは、企業の宿泊研修や、ヨガ体験などのイベントでも使われているそうです。
 
「私がいることで、この部屋は美しさが引き立つの」と言わんばかりの、象徴的な照明。真下に寝転がっていると、天井の広大さに圧倒されて宇宙を見るような気分になります。
 
 
Copyright:Yuri Ito @yurio_it

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そして何より圧巻なのが、大広間を取り囲む二面の長い廊下。その廊下に面して張り巡らされたたくさんの窓。
この大きな二壁面分の窓、これは現在の木造建築では、なかなか見ることができないんじゃないでしょうか。
 
私の友人が素敵な表現をしてくれましたが、まさに空中に浮いているような空間です。
 
 
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◎お風呂
 
時間予約貸切制、入れ替え制で入ることができます。
湯船に浸かり、ゆっくりと体を温めることができます。
 
貸切の時間外はお湯ははられていないのですが、シャワーを使うことができます。
脱衣所がクラシカルで、洗面台の陶器のボウル、黄金色の蛇口がいい雰囲気。
 
 
 
 
◎洗面・お手洗い
 
昔の設備そのままの洗面台が廊下の途中にありますが、男性用、女性用お手洗いともに大きな鏡の洗面スペースがあります。
女性用は特にスペースが大きいので、朝の時間帯も込み合うことなく使えそうです。
 
 
 
 
◎レストラン
 
「カフェ&ダイニング ぼたん」
木彫の落ち着いたダイニングは、朝、昼、夜とお食事を提供してくれる場所。地元の食材や、由来のある調味料などを合わせ、丁寧に味付けられた食事が出されます。実際ほんとうに美味しい。
あまりに美味しいので、二日連続でランチ食べちゃいました。笑
 
 
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「土地を愉しむ」旅に、宿の質、食の質は欠かせない要素。日本文化を知って欲しいと願うこの宿でもやはり、「食」は一つのキーワード。
ここぼたんは、プロのシェフを召喚しているほどの力の入れようです。
 
 
 
 
ブレークファスト:7時〜9時
ランチタイム  :11時〜14時半
ディナータイム :18時〜21時
※ブレークファストとディナーは宿泊予約時に一緒に申し込んでください。
 
 
◎ほか
 
要所要所で感じるのは、建物に使われている柱や木の馴染んだ色味、そのなめらかな美しさ。
「こんなところに」と思う場所にある小さな照明は、ただこの直径1メートルほどの空間を照らすためだけのものだったりする贅沢さ。
 
 
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随所に使われや結霜ガラスは当時の職人の技。そのガラスを通る光の柔らかさ、繊細さ。
それは、この宿を作った人たちの、豊かさそのものだと思います。
 
 
 
 
正しいこと、便利なこと、整理されていること、無駄がないこと、すべてがぴったりすぎるほど隙間のない完璧さ。
そういったものに、囲まれて生きているんだと、改めて感じます。
そしてそれはゆとりのなさを生んでいるんじゃないかなと。
 
現代においては「完璧じゃない」建物だと思いますが、それが何よりもの美しさ、豊かさを持っているんだと思います。
 
 
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さいごに。
例えば、宿の方の話を聞いていると、「お客様がそう思うのは分かる。でも宿をやっている方としてはそんなところまではやり切れない」という話を聞くことがあります。
 
私は本業で企業の経営者や管理職層の方と話す機会が多いこともあり、経営という観点で「やりきれない」ことを汲み取れる部分もあります。
でも、さおりさんは、それでも「そこを改善するためにはどうしたらいいか」と考えることをやめません。
 

これは前職のホステルの立ち上げをしていた時も、彼女から感じたこと。お客様センスと宿センスと両方を持って、お客様の時間を大切にしています。

 

 

Copyright:Yuri Ito @yurio_it

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そしてそういった哲学は、お部屋の調度品、寝具、清掃、お食事、そういう宿をつくる全てのものからも感じることです。

お客様がもっと幸せにになる可能性を、宿の都合で潰さないように、きっと経営者の喜多さんやスタッフのみなさんで考えているのだと思います。

今はまだ立ち上げたばかりで、喜多屋が目指しているお客様満足には程遠いかも知れない。けれど、きっと毎日少しずつ、この宿は良くなっている、そう信じてます。

 
 
 
 
Copyright:Yuri Ito @yurio_it

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私が伺った時は梅がやっと咲き始めた2月の日。河津桜は咲いていましたが、ソメイヨシノはまだまだ。
けれど、行くなら今です。
 
広重の絵にも描かれた、桜の名所として有名な称名寺は宿の近く。美しい桜の回廊となる参道を堪能しに行ってくださいね。
 
●称名寺の桜の回廊の様子
(THE YOKOHAMA STANDARD)